中2の思い出(1)

この連載は先の連載をFacebookでしたところ、ごく一人の方から「連載終わってさみしい!!」という声を聞いて書いているものです。

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僕はごく普通の公立中学に通っていた。学校区は長方形をしており、学校が左上の端にあった。私の家は右下。対角線上の一番遠くにあったので、仲のいい友人宅をツアーで誘いながら朝の通学の起点になっていた。

中学2年生の9月。夏休み明けの二学期初めに席替えがあり、私は博美と隣同士になった。彼女とは1年生のときにクラブ活動のESSで一緒だったのだが、まったく話をしたことがなかった。2年生で同じクラスになったあとも存在を知っているだけ。というのも、僕はESSと並行して入っていた技術部に入り浸っており、ラジオやインターホンを作ったり、無線機をいじったりして遊んでいたからだった。

 博美は中肉中背、おかっぱ頭で目がくりっとした子だった。噂になる、というほどではなかったけれど、十分にかわいい女の子。
 彼女は音楽好きで、アコースティックギターを独学でやっていると言っていた。実は僕も中一からギターを始めていて、どのように練習しているのかを教えあったり、好きなアーティストの話をしたりしているうちに仲良くなっていった。
 当時はやっていたジューシー・フルーツの「ジェニーはご機嫌ななめ」を裏声を使って、物まねして歌ってあげたら大うけしたみたいで「橋本くんって真面目でカタブツだと思っていたけれど、そうじゃないんだね」と褒められているのかイマイチ微妙なコメントをもらった。まあ、それは置いといて、私と博美は授業中もぺちゃくちゃ私語をして先生に注意されるというところまでになってしまった。過去の私の歴史上、授業中に注意されたことはこのときだけ。
そして、そうなると、クラス中に噂が広まるのはすぐだった。

女子の制服はセーラー服だったが、体育の授業がある曜日は最初から体操着で通学している生徒もいた。その日は博美もそうで、上半身は体操着、下はジャージに制服スカートといういでたち。ふだんはだぼっとしたセーラー服なのでよくわからない身体のライン。それが体操着だとわかってしまう。

いつものように右隣の博美と話をしていたけれど、僕の視線は彼女の胸にくぎ付けだった。それまであまりそういうことに興味がなかったのだが、彼女の胸は思いのほか隆起していて、白い体操着を押し上げ、滑らかな曲線を形作っていた。
 そのとき、私はその曲線がものすごく「きれいだな」と思ってしまい、じっと見つめてしまっていた。その視線がどこにあるのか、博美はわかったようで、両腕で胸を隠すと「ちょっと、なに見てるの」と声をとがらせる。
「あ、うん」
「胸、見てたでしょ、エッチ!」
「あ、いや、違う」
「なにが違うの?」
「胸は見てたけど」
「やっぱり、エッチ! 変態!」
「いやだから、そうじゃなくて、きれいだなって」
「え」
「美術の教科書に載ってる彫刻あるじゃん。あれみたいだなあって。その、曲線っていうか」
「もう、何が曲線よ、エッチ変態スケベ!」

 その会話はまたたくまにクラス中に広がり、優等生キャラだった私はたちまち「エッチ変態キャラ」になってしまった。
 最後に「曲線がきれい」と言ったあたりで、博美は顔を真っ赤にしていたのだけど、なんだか目が違ってみえた。彼女はおそらく生まれて初めて自分の身体のことを褒められたのだと思う。照れ隠しに私に悪口を言っているようだった。そんな会話のあとでも彼女と気まずくなることはなかった。

(つづく)