中2の思い出(2)
僕が中2だったのは1980年、昭和55年だ。
そのころの世界は今よりも単純だった。世界は米ソをそれぞれの盟主とする資本主義陣営と社会主義陣営に分かれ、核兵器を突き付けあって対立していた。
日本ではずっと自民党政権が続いていた。前年に「機動戦士ガンダム」が放映され、この年の1月に終わっていた。そのころから僕は熱烈なファンだったが、まさか36年後まで続いているとは思わなかった。マンガ雑誌は買わなかったが友人から借りた週刊少年ジャンプには「Dr.SLUMP」が連載中だった。つまり、まだ、「ドラゴンボール」は生まれていない。(1984年連載開始)
世の中では子猫に学ランを着せて立たせた奇妙なキャラ「なめねこ」が一世風靡していた。
Wikipediaから抜粋した1980年の出来事。
1月、ポール・マッカートニーが成田空港で大麻所持で逮捕。
5月、韓国軍政による最悪の弾圧事件「光州事件」が起こる。
7月、モスクワ五輪。日本は前年のソ連によるアフガン侵攻に抗議してボイコット。
9月、イラン・イラク戦争勃発。
11月、米大統領選挙で元俳優のドナルド・レーガンが当選。
12月、ジョン・レノン、自宅前で自称ファンに射殺される。
ウォシュレットが発売されたり、ファミコンが発売されたり。
同年代の方なら、「ああ、あのころか」とわかっていただけると思う。
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9月の連休明け、博美が髪型を変えた。子供っぽいおかっぱから、いわゆる「聖子カット」にしたのだ。この年4月にデビューした松田聖子は7月にリリースしたセカンド・シングル「青い珊瑚礁」が爆発的ヒットになり、一躍アイドルの頂点に立った。山口百恵が結婚のため引退した入れ替わりとしては、ベストなタイミングだったかもしれない。
彼女の聖子カットはとても似合っており、それまでの印象がかなり変わった。
「あいつ、けっこうかわいくなったよな」
放課後の教室。男子だけで集まって話すのは女子の噂話。その中心にいきなり博美が登場したのだ。僕は少し複雑だった。
クラスメートからさんざん冷やかされ、「博美とデキてる」「好きなんだろ」と茶化され、そのたびに「違う」と否定し続けてはいたが、14歳だもの、そういわれ続けると逆に意識してしまう。それに博美は先の「エッチ変態事件」のあとも気軽に話をしてくれていた。
聖子カットになって、見違えるようにかわいくなった博美。意識してしまう。
それに、これまでの態度で博美もまんざらではないのではないか、なんて思い始めていた。
10月になって再び席替えがあり、博美とは離れ離れになった。それでも噂は沈静化しない。僕は聞かれるたび、はやしたてられるたびに否定した。
「別に好きとかじゃない」と。
でも、その言葉とは裏腹に、気持ちが急速に傾いていく。
それなのに。
10月17日は僕の誕生日だったが、その近辺で予想もしないことを聞いた。
「橋本、お前やっぱ博美とデキてなかったんだな」
「だから、ずっとそう言ってるだろ」(いきなり、なんだ?)
「博美、林と付き合い始めたらしいぜ」
え。
激しい衝撃が僕を襲う。
林は同じクラスで2年生ながら、ハンドボール部の副キャプテン。眉目秀麗。成績も悪くない。簡単に言えば僕が太刀打ちできる相手ではなかった。
しかも、林は毎朝一緒に学校に通っている相手だったのだ。
彼が博美のことを気にしてるなんてまったく聞いていなかった。
博美もだ、あんなに僕と仲良くしてて、手のひらを返すようにほかの男とくっついちゃうのか。
なんだか僕は脱力してしまったのだった。
(つづく)