皆既月食


こんな浅い時間に皆既月食なんて奇跡のようなもの。
都心の会社を出たときには、かけ始めた月を見ることができた。

地下鉄に乗って帰宅途中、奥さんにメッセを送る。

娘に月食を見せろというのだが。

雲がかかってみえないという。

なんということだ。

やがて私も最寄駅に着く。

たしかに薄い雲が広がっていた。

普段の満月なら、「ここにあるよ」とわかるぐらいの光を放っているだろうが、なんせ、皆既月食中。

結局わからず。

帰ってきて、テレビのニュースで見たりしていて、ふと、今はどうかなとベランダへ出てみた。

あいかわらずの雲だけれど、やがてうっすらと光が漏れ、皆既を終えた三日月が見えてきた。急いで娘を呼んで、月食を見せる。

「あれ、じいじ?」

「そうだよ」

「じいじ雲にかくれちゃう」

「かくれんぼしてるのかな」

やがてすっかり雲の中に入り込んでしまい光は失われた。

ちゃんとした月食、見せてやりたい。