バイト時代の思い出(2)

普段の月は一カ月3万円くらいの稼ぎでした。当時の時給は480円。そのあと昇給して最高520円まで上がりましたが、このときはまだこのくらいです。(ちなみに1984年の大阪府の最低時給は475円)
しかし、夏休みは毎日9時間拘束(1時間休憩)で働きまくったため、10万近いバイト代を稼げました。物価やバイト代から換算すると今の価値ではほぼ倍でしょうか。

理恵ちゃんはほぼ毎日というわけでもありませんが、わりあい多めにシフトに入っていました。店で話すようになると、オフィスで休憩のときにも雑談をするようになります。

話してみると、とても素直でいいコなんだとわかってきましたし、彼女も私が音楽好きで優等生でもなんでもないことがわかってきたようでした。夏休みが終わり9月になって、シフトに入る頻度は元に戻りましたが、一瞬オフィスで顔を合わせたりする数少ない瞬間にもバカ話をするようになっていたのです。以前なら、ギロリとにらまれるだけだったのですが。

日曜日はばっちり9時間拘束でフルに入っていたのですが、たまに早めに上がるときもありました。その日は偶然夜7時で私と理恵ちゃんが上がることになっており、二人で店からオフィスまで歩き(50メートルほど離れた雑居ビルにオフィスがあった。今はもう取り壊されている)無人のオフィスの鍵を開けて、着替えてソファに座ってまったりとしていたときです。

今となってはどうしてそんな話題になったのかまるで覚えていないのですが、話は理恵ちゃんのメイクの話になったのです。私は思わずこんなことを言っていました。

「理恵さ、肌きれいだし、もともとかわいいんだからもう少し化粧薄くしてみたら? 俺、そういうのは全然詳しくないけど、絶対そのほうがいいと思うんだけど」

 その頃にはもう、彼女のことを名前で呼ぶようになっていました。彼女はそう言われると「うん、わかった。やってみる」と答えました。

 一週間後。前週とまったく同じで夜7時に私と理恵が仕事を終えました。そのときまで私は自分が言ったことを完全に忘れていました。
無人のオフィスに着き、着替えて、またソファでまったりしているとき、着替えを終えて更衣室から出てきた理恵は「ねえ、先週言われたとおりに薄くしてみたんだけど……どうかな」と言ってきたのです。

店にいるときは強烈な照明が当たっているため、化粧の濃さなどわかりません。帰りの道はすでに夜。この日初めて私は普通の照明の下で、理恵を見たのです。

 私にとっては理想的な女の子がそこにいました。たぶん、眉をそろえ、うすく頬をぬり、ルージュをひいた程度。(まったく知識がないので的外れかもですが、とにかく以前とはまったく濃さが違っていました)

私はしばらくぼーっと見とれていました。「うん、いいよ。すごくいいと思う。俺、そういう感じ、好きだな」。私はそれだけ言いました。するとそれまで見せたことのない表情……はにかんで照れたような顔で「そうか、よかった」と答えました。

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そのときは何とも感じてなかったんです。ていうかここ最近まで忘れていたくらいだから。でも、映画のおかげでそういうエピソードもあったな、と思いだして、ふと思ったんですよ。

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私「お前、化粧うすくしたほうがいいよ」
理恵「うん、わかった、してみる」

一週間後。

理恵「言われたとおりにしてみたんだけど、どうかな?」
私「うん、いいよ。すごくいいと思う。俺、そういう感じ、好きだな」
理恵「そうか、よかった」
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これって絶対、フラグ立ってますよね? 少なくともちょっとは私のこと気にしてますよね?

私の天然ぼけはこのフラグにまったく気がつかなかったんです……。
で、33年後になって気付くという。度しがたいアホです。ぼんやりしすぎでした。

(つづく)