あるアイスクリーム店の派閥抗争・上編

最近、昔の日記を調べるネタがあったので少し読んでみたのだが、今読んでも面白いネタがあったのでちょっと加筆/解説して転載してみる。1998年10月25日に書かれたもの。
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僕が大学2回生のときから勤めていたバイト先での話をする。
1986年当時、行列で有名になったアイスクリーム店の京都店。そのオープニングスタッフとして、僕は参加することになった。バイト総数100人。社員はわずか3名だ。
この会社は京都市内で手広く飲食業を営んでおり、このアイスクリーム店はフランチャイジーとして運営していた。

人が集まるところの常として、必ず派閥は出来る。

この店の男子バイトの半分は同志社大学の学生で、ほとんどが3回生。あとの半分は立命館、京都外大である。後者のほうは、ほとんど1,2回生が占めていた。そうなると、通っている学校や年齢で派閥ができるのは致し方ない。

バイトの階級は4つに分かれており、その頂点に立つのは「チーフ」である。
チーフはバイトの勤務シフトを社員マネージャーに代わって設定・管理する権限を持っていた。

店が始まって、暫定的に指名されたのは京都外大の3回生、水野だった。しかし、彼は3か月でバイトを辞めた。この3か月間というのは大事な期間で、仕事のスキル、人柄、学校、勤務シフトなどで仲の良いグループが顕在化してきた。

同志社グループとその他のグループである。同志社グループの中心人物であった小川は、当時店を仕切っていた社員マネージャー・望月と懇意であり、第2代のチーフに2階級特進して着任。同志社グループが店を主導する時期の始まりである。

私は、どちらかというと反主流派の中心人物と思われていたらしい。以前に同じような職種のバイトを経験していて、初めてアイスクリーム店を経営するこの会社にさまざまな提言をしていたし、もう一人いる社員マネージャー・後藤と懇意だったからである。

とはいっても、この時点では主流・反主流ということで反目しあうようなことはなかったし、男性陣でも中立的な立場の人ももちろんいた。

ちなみに女性陣のほうは、男性よりも細かなグループに細分化されておりり、一部が主流派である同志社出身者だったのでそちらのグループへ、あとは中立という感じであった。

大学生の男女が集まると、やはり恋愛沙汰は起きるものである。

開店して4か月くらいたったころ、僕は中立派の古河から相談を受けた。女性バイトの藤原のことを気に入ったという。しかし、彼はとてもシャイな男で、仲立ちを僕に頼んできたのだ。僕と藤原は開店当初からよく同じ時間帯にバイト入っており、わりと話す間柄になっていたので、彼の頼みを入れ、彼女との仲立ちをすることを承諾した。

ところが彼女のことを気に入っている男が他にいた。そのころ、チーフとなっていた同志社グループの総帥、小川である。

僕が藤原と話し込んでいるところをどういう勘違いをしたのか、「船橋が藤原にちょっかいをかけている」というふうに話が伝わった。ここで同志社主流派による、反主流派、ことにその頭目と目されていた私に大弾圧が加わった。小川はシフトを作る権限を有している。なので、私がバイトに入る回数を極端に削減したのだ。1/3になってしまった仕事と収入でどうしようと考えたのだが、らちはあかないし、だいたい当時、どうしてそんなことになったのか僕にわかるはずもない。もともと、秋に差し掛かって気候が寒くなり、客足が少なくなっていたころだったので、そのせいだと思っていた僕は能天気そのものだったが、懇意にしていたマネージャー・後藤から事情を聞いて、僕は愕然とした。しかし、古河の件を話すわけにはいかない。

結局、藤原は、古河の申し入れを断った。古河はバイトを辞めた。

夏前に開店した店だが、秋になると売り上げは落ちてくる。そのため、バイトの一部がリストラされ、このときかっこよさだけで応募・採用されていた同志社グループの半分が解雇された。これにより、私がバイトに入る回数は以前と同水準に戻る。このころ、1階級昇進した。

年があけ、アイスクリーム屋がもっともつらい時期である。
チーフの小川はついに藤原に大アタックをかけはじめた。彼女から相談された僕であったが、ちょっと前に勘違いによるとばっちりを受けていた僕は、言葉を濁した。

余計なことを言って、また面倒なことになりたくない。ちなみに彼女が僕に相談したのは僕のことを気にいってたわけではなく、僕にバイト外で恋人がいたから。完全に安全パイだと思われていたのだろう。

秋の終わりくらいから僕は前述のような裏話を聞いてからは誤解を受けないよう、「自分には彼女がいます」とそれとなくアピールするようになった。彼女との待ち合わせを店で行ったりしていたので、僕に恋人がいるということはこの段階ではバイトのほぼ全員が知っていた。

春。4月になって小川がバイトに来なくなった。表向きは「4回生になり、就職活動に専念する」というものだったが、その裏の事情を聞いて僕は笑ってしまった。小川が猛アタックをかけていた藤原を奪ったのが、社員マネージャーで彼と懇意にしていた望月だったのである。

小川は好きな人を、信用していた男に奪われ、身も心もボロボロになり退職してしまったという。期を経ずして同志社グループの男子バイトが続々と退職していく。たしかに4回生になるタイミングだったので、これは不思議ではない。

また、藤原を奪った望月は系列の別の店(カレー屋)に転勤になった。ここに、同志社グループが店でもっていた覇権は、そのリーダーと後ろ盾になる社員を失い瓦解する。それはただ一つの失恋が生んだ波紋だった。

(つづく)
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解説
■○回生。関西では大学生の場合にのみ、1回生、2回生というように「回生」を使う。小中高は「年生」。
■店は修学旅行生でおなじみの新京極通りにあった。京都一の繁華街である河原町通りの至近にあるため、デートの待ち合わせ場所として活用した。
■社員マネージャーは商品発注と出入金管理を行っていた。
■あとで女性マネージャーに聞いたところ「バイトは全員顔で選んだ」と言っていた。どうして僕が選ばれているのか不明だが(爆)、採用面接のとき眼鏡をかけていたのを「コンタクトは使わないのですか?」と質問されたことは覚えている。また、女性陣はその選考基準に納得で、みんなスレンダーな美形だった。
■僕は当時、通常コンタクトレンズだったが、クラブ活動のバトミントンをしているときにシャトルが目に当たって、ハードレンズが目の中で割れるというケガをしてしまい、面接のときは眼鏡だった。